
今日も一日、お疲れさまでした。
人とすれ違うたびに、ほんの少しだけ気を張ってしまうこと、ありませんか。
今夜は、近所のスーパーで起きた、静かなやりとりのお話です。
あたたかいお茶でも飲みながら、ゆっくり心をほどいて読んでみてください。
セルフレジの前で
少し前、近所のスーパーに立ち寄ったときのことです。
夕方前の店内は、蛍光灯の白い光と、買い物かごの擦れる音で満ちていました。
最近増えてきた、レジは店員さん、支払いはセルフという方式。
うちの田舎のスーパーにも、ついに導入されたばかりでした。
いつものように会計を済ませ、精算機にお金を入れていると、隣から硬貨が床に落ちる乾いた音が響きました。
目を向けると、そこには手に障がいのある様子の方が立っていました。
指先が小さく震え、小銭を入れようとするたびに、何度も床へ落としてしまっています。
その姿は、見ているだけで胸が締めつけられるほど、懸命でした。
ごめんね、と言ったのは
“手伝った方がいいかな“
そう思った瞬間、なぜか身体が動きませんでした。
もし怒鳴られたらどうしよう。
余計なお世話だと言われたらどうしよう。
そんな想像ばかりが頭をよぎり、私はただ立ち尽くしていました。
そのとき、その人がふと顔を上げ、私を見ました。
そして小さな声で、こう言ったのです。
「ごめんねぇ……」
一瞬、意味が分かりませんでした。
困らせているわけでもない。
ただ、うまく動かない手で、一生懸命お金を入れようとしているだけなのに。
勝手に「怖いかもしれない」と決めつけ、何もしなかったのは私の方でした。
胸の奥がぎゅっと苦しくなりました。
ようやく身体が動き、床に散らばった小銭を拾い上げました。
ひとつずつ、その人の手の届くところへ差し出します。
「大丈夫ですか。入れるの、手伝いますね」
震える指先で受け取りながら、その人はほっとしたように微笑みました。
「ありがとうね……本当に、助かったよ」
そしてポケットを探り、小さな飴玉をひとつ差し出しました。
「これ、よかったらもらってくれる?」
スーパーでよく見る、ごく普通の飴。
でもその手と声には、まっすぐな感謝が込められていました。
たったひとつの飴玉
たった数枚の小銭を拾っただけ。
それなのに、受け取った飴玉は、不思議なくらい重く感じました。
本当は、もっと早く手を差し伸べられたはず。
それでもその人は、最後まで「ごめんね」「ありがとう」と繰り返してくれました。
スーパーを出たあとも、手の中の飴玉を何度も見つめました。
包み紙を開けるのが、なぜだか惜しくて。
あの日の短いやりとりは、今も心の奥にそっと残っています。
さいごに
人に声をかけるのは、ほんの少し勇気がいります。
けれど、その一歩が、誰かの一日をあたためることもあるのかもしれません。
もし今日、ためらってしまったことがあったとしても。
きっと次は、もう少しやさしく動けるはずです。
この物語が、あなたの心を静かに整える時間になっていたら嬉しいです。
どうか穏やかな夜を。
おやすみなさい…
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